シンガポールに学ぶ効率的な医療システムの仕組み

2016年のブルームバーグヘルスケア効率指標でシンガポールは2位にランクインされた。アメリカや日本をはじめ世界的に拡大する医療費の政府支出を抑制する必要性が高まっている中、シンガポールの効率的かつ管理された医療システムが高く評価されている。

シンガポールも現在の医療システムにたどり着くまでには紆余曲折があった。1980年代半ばに、シンガポール政府は当時流行していた民営化、規制緩和、市場化を中心としたシステム改革を導入した。しかしその後、医療費支出の増加による政治的不安を理由に、政府は政府主導の政策に変更した。様々な改良を加えた結果、現在の医療システムに落ち着いた。

なぜ医療費支出を抑えられたのか?以下の3つの特徴がある。

1つ目は、医療保険制度の存在である。3Mと言われるメディセーブ、メディシールド、メディファンドの3つの医療保険制度がある。

シンガポールでは社会保障制度としてCPFCentral Provident Fund=中央積立基金)というものがある。これは強制加入で雇用者も労働者も毎月の給与から一定の割合で積み立てられる。

普通口座、特別口座、メディセーブ口座とあるが、それぞれ一定の割合で積み立てられ、いずれの積立金も免税で金利がつく。メディセーブ口座に積み立てられた資金は公立病院やメディセーブの提携病院で使用可能である。但し、使用には制限があり入院や予防接種、特定疾患の外来診療以外では使用出来ない為、例えば風邪のような一般外来診療の場合は全額自己負担となる。またメディセーブ積立金は使わなければ無税で利子のついた貯蓄口座に蓄積され、それを将来的に年金としても活用できるため、健康を維持し将来の医療費を抑制しようという個人のモチベーションも働く。

   メディシールドは、メディセーブだけではカバーしきれない入院費の自己負担分の一部をカバーしたり、高額医療費をカバーする政府運営の任意加入の医療保険である。こちらも免責額や上限額もあり、指定疾患の外来医療以外には適用されない。

   メディファンドは、メディセーブやメディシールドでも支払うことができない低所得者向けのセイフティーネットとして政府出資の保険である。治療費が払えないことを申請することによりメディファンドが費用を代行し支払う。

   このように国民がそれぞれ必要な医療を享受しつつも、同時に無駄な費用の発生を省ける仕組みを作り上げている。

    他にも入院の際に、医療費の負担比率によって患者がサービスを選ぶことが可能である。公立病院では部屋のグレードがAB1B2Cと分かれている。(参考1)例えばクラスAだと100%個人負担であるが個室(バス、トイレ付き)で主治医を選ぶことができるが、クラスB2だと35%の自己負担で済むが6人共同部屋(バス、トイレなし)で主治医は選択不可といった具合である。個人負担はメディセーブやメディシールド積立金で足りない分を支払う。 

   また医療費負担率のランクによって医療の質の差が生じるのを防ぐために、チーム医療でカバーしている。

   このようにサービスの手厚さによって自己負担の比率を変えることにより医療費への意識を高めるとともに政府支出の削減にも役立っている。

   2つ目は、家庭医という仕組みである。病気にかかったらまず初めに家庭医にかかり、早い段階で初期治療を行い、高度な治療が必要な場合には専門医を紹介するという仕組みだ。シンガポールでは診療所と病院の役割が明確だ。診療所は初期治療を行い、病院では専門治療を実施する。家庭医は診療所の役割を果たし、公立の場合は補助金が多く投入されているため治療費もかなり安い。かかりつけの家庭医をみつけて、病気を初期の段階で治療できれば、重篤化を予防し結果として医療費負担が減る為、政府の医療費支出も減るのである。

   3つ目は、医療への政府の積極的な介入により病院を上手くコントロールしている点があげられる。

シンガポールでは大多数が政府所有の公立病院である。日本で公共事業というと競争がなくコストに関する認識も甘いことが多いがシンガポールの場合はそうではない。

例えばメディセーブは元々は政府系の病院での入院費を対象としていたが、その後上限を設けた上で私立病院の支払いにも適用できるようにした。これにより私立病院と政府系病院の間で競争原理が生じ、政府系病院のサービスの質が飛躍的に上昇した。(外来専門クリニックや一般開業医にかかる際のメディセーブの使用は認めていない)

また入院前のファイナンシャル・カウンセリングが義務付けられており、医療費の見積もり額を説明し患者からサインをもらう必要がある。このシステムにより他病院と比べて極端に高い見積もりを出すことも不可能で、適正な医療費、サービス提供が保てている。

さらに公立病院間での患者情報共有システムにも意欲的である。2004年に公立病院のグループ毎に異なっていた電子カルテシステムを統合し、2012年からは患者毎の診療履歴の情報データを全ての公立病院で共有している。これにより患者が医療グループの枠にとらわれることなくどの公立病院でも最適な治療を受けられるようにした。また不要な二重検査の防止や転院する患者情報の把握の円滑化や救急病院における医療情報の確認の迅速化にもつながり医療の質を向上するとともにコスト削減にも大きな役割を果たしている。

このような複数の制度や施策の試行錯誤を重ねた結果、シンガポールでは効率的な医療システムができている。但しこのような仕組みを持つシンガポールでも高齢化に伴い医療費の支出は増大している。医療費の増大に歯止めをかけられず、常に財源の確保を試行錯誤している日本にとっても参考になるのではないだろうか。

 

参考1:

公立病院入院部屋のランク

Aランク:エアコン、バス・トイレ付きの個室で、自分の主治医を指名可能。政府からの医療費の補助はなし(100%自己負担)

B1ランク:エアコン、バス・トイレ付きの4人部屋で、自分の主治医を指名可能。政府からの補助が20%あり

B2ランク:エアコンなしの6人部屋で、自分の主治医を指名することは不可能。政府からの助が65%あり

Cランク:810人の開放病棟で、自分の主治医を指名することは不可能。政府から補助が80%あり

 

参考2:

私立病院は料金に規制がなく、全くの自由診療。ホテル並みの接客をしてくれる病院もあり、多様なサービスを展開してる。